聞き分ける心を 石丸泰信牧師 列王記3章4-14節

説教要旨 10月20日 録音

「聞き分ける心を」 石丸泰信牧師


列王記3章4-14節
先週の台風から教会は大変な一週間でした。けれども、嬉しいひとときでもありました。人の支えに触れ、人の祈りに触れる一週間でした。改めて思います。このようなときだからこそ、あの日、礼拝ができて良かった、と。祈りたくて来られた方、祈って欲しくて集まった方もあったと思います。あるキリスト教の大学では、授業の合間に短い礼拝をしています。JR西日本・福知山線脱線事故が起ったとき、普段は殆ど、学生は礼拝に来ないそうですが、その時はチャペルが人で溢れ、収容できなくなり、急遽野外で礼拝したそうです。学生たちは祈りたくなった。何が起っているのか聞きたい。今、どんな言葉が語られているのか聞きたいと思ったそうです。
ある方に、こう言われました。「先生、今のことだけでなく、今後のこと、みんなで話し合いましょう」。何気ない言葉でしたが、印象深い言葉でした。これからわたしたちは何を見れば良いのか。その大学礼拝に集まってきた学生も、この事故が起って自分たちはこれから何を見れば良いのか。信じれば良いのか、知りたい。そう思って集まってきたのだと思います。わたしたちも「これから」を見たいと思います。
向河原教会は伝道開始68年です。今週から69年目の歩みを始めます。聖書は将来を見よと言うとき70年先を見よと言います(エレミヤ25:11、イザヤ23:15。ダニエル9:2など)。腰を据えて見ないといけない長い期間。改めて、教会の創設者たちは、どのように今を見ていたのだろうかと思います。わたしは、向河原教会は災害に強い教会だと思いました。建物が強固だというのではありません。人です。何が来ようと平気で立ち上がる方々だと思いました。つい、昔の人はすごいとわたしたちは言いますが、しかし、今を支えている人たちも同じようにすごいのだと思います。今の教会を、最初の時代の方が見たらどう思うのか。おそらく、頼もしいと感じるでしょう。その中で、わたしたちは何をこれからとして見るか。言い換えれば、何を願うか。
ソロモン王の祈りを読みました。彼はダビデ王の息子で、あらゆる富、あらゆる知恵を持っていたと言われます。しかし、今日の箇所は、それを得る前の若き王ソロモンの場面です。神は彼の夢枕に現れて尋ねます。「何事も願うがよい。あなたに与えよう」。人には沢山の願いがあります。その中で優先順位トップの願いは何かと言われたわけです。これほど心の中を探られるシンプルな問いは無いと思います。お金、健康、力、何を求めるでしょうか。教会学校でも同じ問いをしました。さまざまな願いが出たのですが、次に問いを少し変えてみました。「あなたの願いが叶えられるとき、あなたの嫌いな人には、それが倍になって叶う」、と。わたしが幸せを願えば、他の人は2倍幸せになるということです。これを聞いた途端、「ゴキブリ1匹!」と言った子がいました。自分は1匹でも嫌。けれども相手にはそれが2匹です。あまりに素直すぎて笑ってしまいました。しかし、本当は笑えない。本来、自分への祝福を願うはずが、他の人が2倍得るのなら呪いすら願ってしまうのがわたしたちなのだと思います。
ソロモンはなんと答えたか。彼はまず、父ダビデを思い浮かべました。「ソロモンは答えた。『あなたの僕、わたしの父ダビデは忠実に、憐れみ深く正しい心をもって御前を歩んだので、あなたは父に豊かな慈しみをお示しになりました」。
ダビデは人々に愛された王でした。ソロモンは、その理由を知っていました。それは才能でも人柄でもありません。「憐れみ深く正しい心をもって御前を歩んだ」から。つまり、彼の信仰生活に理由があったのだと言います。考え深い場面だと思います。これから何世代も続く向河原教会の礼拝者が、今の私たちに何を見いだすか。なぜ、あのとき、教会は立ち続けられたのかの理由をどこに見いだすのか。ソロモンは「憐れみ深く正しい心をもって御前を歩んだ」ところに見いだしました。だからこそ、彼は願いました。「どうか、あなたの民を正しく裁き、善と悪を判断することができるように、この僕に聞き分ける心をお与えください」。彼は王として複雑な民の訴えを聞かなければなりませんでした。それを正しく聞き分ける心を彼は願いました。単なる判断力ではありません。その時、その時の神の判断、神の声を聞き分ける心です。そして神は、この願いを喜ばれました。
この願いは、仮に周りの人が2倍得ても、喜びの減らない願いだと思います。彼は王として務めがあります。わたしたちも、母として、父として、教師として、学ぶ者、仕える者として、良いものを願い求めたいと思います。もうすぐ70年を迎える歩みの中で、さらに70年先を見据え、これまでの教会の歩みがそうであったように神の声を聞き分け、正しい心で歩むことが出来ますようにという願いを大きくしてゆきたいと思います。